仙石浩明の日記

2007年5月16日

技術者の成長に役立つ会社とは?(2) hatena_b

技術者の成長に役立つ会社とは?(1) をとても多くの方々に読んで頂けました。 頂いたコメントや、 はてなブックマークに頂いたコメントを見ると、 賛同/批判 両方の立場から様々なご意見がありますね。 拙文が多くの方々の考えるきっかけになったのだとすれば、 書いた甲斐があるというものです。 特に学生さんにとっては、これから自身の人生を切り拓いていくのですから、 いま自分の将来について考えることは、 必ず後の人生にとってプラスになることでしょう。

以下に述べるのは、私が考える「技術者の成長に役立つ会社」の条件です。 他の人は異なった考えを持つかもしれませんし、 私自身も常に考え続けているので、 「役立つ会社」の条件が変ってくることがあるかも知れません。 しかし、 「技術者の成長にとって一番役に立つ会社を目指したい」というその思い自体は、 私が技術の責任者であり続ける限り、変らず持ち続けたいと思っています。

成長を邪魔しない会社

エラソーに「技術者の成長に役立つ会社」の条件と言っておきながら、 最初の条件が「邪魔しない」かよ、 えらく後ろ向きな条件だな、 という非難の声が聞こえてきそう (^^;) ですが、

上司は思いつきでものを言う(新書)
橋本 治 (著)

にも書かれているように、

会社は上司のピラミッドを骨格として、現場という大地の上に立っている。 「上から下へ」という命令系統で出来上がっていて、 「下から上へ」の声を反映しにくい。 部下からの建設的な提言は、 拒絶されるか、拒絶はされなくても、 上司の「思いつき回路」を作動させてしまう。

ということは、極めてありがちなのではないかと思います。 つまり、上司は体面を保つ必要がありますから、 部下に接するとき、 部下の良いところを誉めるだけではなく、 つい「粗探し」をして一言追加したくなるものだと思います。

だって、部下のことを 100% 肯定するだけでは、 上司の存在価値が危うくなりますからね~。 なにか部下の至らない点を無理矢理にでも見つけ出して、 教訓めいたことを言って上司の威厳を保ちたくなるものでしょう。

もちろん、部下の狭量な考えを正すために、 いろんな意見を言ってやることが必要なケースもあるでしょう。 「思いつきで」言うことが全て悪いと言うつもりもありません。 しかし、 部下の短所を矯正することばかりに熱中していては、 部下が技術者として成長することを妨げることになりかねません。 例えば、

キミは技術は優れているんだが、 もうちょっと仲間とうまく仕事をやっていくよう努力してもらえんかね? キミも社会人なんだから学生気分は早く捨てて、 チームワークを重視して仕事してもらわんと困るよ。

なんて言ってないでしょうか? 技術が (おそらく上司よりも) 優れている部下に対し、 その得意な技術をもっと伸ばすことよりも、 その部下がニガテとしていること、 例えばコミュニケーション能力を 「人並みに」身につけることを優先するよう要求してしまうわけです。

「感情的コミュニケーション」は、 若いうち (例えば 30歳前半まで) は手を出さないようにして欲しい コミュニケーション能力である。 特に研究者や技術者を目指そうとする若い人たちには、 周りの人がどう思うかなんかは気にせず、 (「空気嫁!」などの罵倒は無視して) 我が道を進んで欲しい。

コミュニケーション能力なんて、 歳をとって頭が固くなってからでも充分身につけることができます。 そもそも技術者にとって「人並み」のコミュニケーション能力なんて、 どれほどの価値があるというのでしょう? 技術者としての成長を考えるなら、 若いときにしか学べない「技術の本質」を身につけることこそ、 優先すべきではないでしょうか。

以上は、積極的に「成長を邪魔する」ケースですが、 以下のように、消極的に「成長を邪魔する」ケースも、 ありがちなのではないかと思います。

すなわち、 技術者の成長を第一に考えるのなら、 それぞれの技術者が自身の能力をフルに発揮して、 得意なことをとことん伸ばすことができるような 活躍の場を与えるべきだと思うのですが、 現実の会社だとそういう「適材適所」は、 なかなか難しいケースが多いかも知れません。 適切な活躍の場を与えないというのは、 成長を邪魔しようと意図しているわけではないにせよ、 結果として邪魔しています。

例えば、 新入社員がある特定の分野において素晴らしい能力を持っていたとしても、 その分野の業務に先任者がいたらどうでしょうか? その先任者を異動させてまで、 新人にその分野の業務を任せる、 という会社は多くはないでしょう。 むしろ、 新人が何が得意か検討して配属先を決めるというよりは、 人が足らない部署への配属を優先する会社の方が 多数派であるような気がします。

さらに言えば、 配属後も新人には雑用ばかりをやらせ、 能力を発揮できる仕事を任せない、 なんてこともあるのではないでしょうか。 上司と同様、 先輩にもメンツというのがありますから、 たとえ後輩の方が能力が高かったとしても、 それを素直に認めて立場を逆転させる (つまり先輩が新人の指示に従う) よりも、 新人の至らない点を無理矢理にでも見つけ出すことに熱中し、 雑用を押し付けることに終始してしまうものなのかも知れません。

会社ってのは、 部下や後輩の技術者の成長を邪魔してしまえ、とささやく誘惑に満ちています。 私自身、そういう誘惑に負けそうになることが全く無いと言えば嘘になります。 部下や後輩の技術者の成長を邪魔していないか、 常に自省し続けることこそ、 「技術者の成長に役立つ会社」の第一の条件と言えるのではないでしょうか。

技術者を「技術そのもの」で評価する会社

技術者が邪魔されずに成長できたとしても、 その成長を「技術そのもの」できちんと評価してあげられなければ、 片手落ちです。 技術的に成長したら成長したぶんだけ、 きちんと評価されて給料が上がる、 こうしてはじめて、 技術的に成長しようという意欲が継続するのだと思います。

こういう話をすると、 なぜ技術的に成長したからといって給料を上げる必要があるのか、 と思う人がいるかも知れません。 会社は技術者養成機関ではありませんから、 能力ではなく成果に対して報酬を支払いたい、 と思う人が出てくるのは当然でしょう。 では、「技術者の成果」とは何でしょうか?

「技術者の成果」とは何でしょう?
技術者が作ったものから得られる売上でしょうか? もちろん、それだけではないですよね? 「青色LED」のように最終的に莫大な利益を生み出したものは、 とても分かりやすい「成果」ですが、 サーバシステムの運用などのような縁の下の力持ちの仕事だって立派な成果ですし、 さらに、自分自身では何も生み出さなくても、 社内の技術者を育てることや、 社内の技術をブログなどで発表して会社の知名度を上げることなども、 立派な成果と言えるでしょう。

技術者という人材を「人財」すなわち会社の資産と考えるのであれば、 技術者の成長とは、「人財」の価値の増加、 すなわち会社の資産の増加を意味します。 売上は単にそのとき限りのフローに過ぎませんが、 技術者の成長はストックとなるわけです。 会計数字には現われにくいので見落とされがちなのですが、 技術者自身の成長こそ、 本来は最も評価されるべき「成果」と言えるのではないでしょうか。

しかしながら、 技術者の成長を「技術そのもの」で正当に評価することは、 容易ではありません。 「技術そのもの」で評価しようとすれば、 その技術分野の概要を理解している程度では全くダメで、 いざとなったら部下の仕事を代行できるくらいの技術力が、 評価する側に求められます。

もちろん、 いろんな得意分野を持つ部下たち全員において、 その仕事を完全に代行できることを上司に求めるのは無理な話でしょう。 部下全員の技術力のスーパーセットの技術力を上司の条件にしていては、 上司のなり手がいなくなってしまいます。

かといって、 半期ないし一年における部下の技術面での成長が、 どのくらい優れたものといえるのか評価できなければ、 つまり毎回「よくできました」「もっとがんばりましょう」などの 概要評価ばかりでは、 部下のモチベーションが下がってしまうことでしょう。 まして、技術面で部下の能力を評価するのを放棄して、 部下の関わったプロジェクトの売上高をそのまま部下の評価としていては、 技術的に成長しようというモチベーションを持続させることは不可能でしょう。

給料の一部が売上 (ないし利益等) に連動する、 ということはあってもいいとは思いますが、 技術力に連動する部分もあるべきで、 技術的に大きく成長したときはきちんと給料に反映させ、 あまり成長できなかったときは何が足らないのか、 きちんと指摘してあげるべきだと思うのです。

それには、 部下それぞれの得意分野について、 パフォーマンスの観点では部下に劣ることがあったとしても、 少なくとも技術内容の理解の観点では勝るとも劣らないことが 重要ではないでしょうか。

もちろん、これとて容易なことではありません。 部下が極めて優秀な場合、 その技術的背景をマトモに理解するには大変な労力が必要となるかも知れません。 つい、技術で評価するのを放棄して、 技術とは関係ない点を持ち出したくなるものだと思います。 しかし、 いくら大変でも、いくら時間がかかっても、 部下の技術を一生懸命理解しようとすることが重要だし、 理解しようと努力し続けてはじめて、 「技術力ではないところで部下を評価してしまえ」という誘惑に 打ち克つことができるのではないでしょうか。

得意分野を見つける余裕がある会社

現在の仕事が自身の得意分野に一致していて、 かつその仕事が好きであれば、 技術者にとってそれは理想的な仕事と言えるでしょう。

一生の時間のうちのかなりの時間を仕事に費やすのですから、 一生かけて取り組みたいと思うようなことをすべきだと思うのです。 好きなことをやっててお金がもらえれば苦労はしない、 と多くの人は言うでしょう。 でも、本当に一生かけてもやりたいほど好きなことってありますか?
面接 FAQ (4) から引用

しかし、 「やりたいこと」そのものズバリを、 最初に就職したときから仕事として やり続けてきた、 という人は少数派でしょう。 (私を含めて) 多くの人は、 いろんなことをやっているうちに、 「これだ」という仕事に出会い、 それにのめり込んでいくものなのではないかと思います。

あるいは、 今の仕事が一番自分に向いていると思っていたとしても、 なにかのきっかけで他の分野のことをやってみたら、 その分野のほうが魅力的であると感じ、 どんどん引き込まれてやっているうちに、 そっちのほうが自分に向いていることに気づく、 なんてこともあるかも知れません。

だから、 本業以外にも、 業務と関係ないことでも、いろいろ挑戦して欲しいと思っています。 ふとしたきっかけで始めたことが、 もしかすると自身の隠れた才能が開花することに 繋がるかも知れないのですから。

本業以外に熱中できる新分野を見つけた部下に対し、 「新分野を頑張るのはいいけど本業も忘れずにね」という忠告はするけど、 その新分野への取組みも大いに応援する、 KLab(株)はそんな会社でありたいと思っています。 勤務時間の 10% は本業以外のことを好き勝手にやっていい、 もし見込みが出てきて周囲から認められるレベルになったら、 それを本業にしてしまってもいい、 という「どぶろく制度」を作ったのも、 熱中できることを見つけるチャンスを逃して欲しくない、という思いからです。

本業の完璧な遂行もいいのですが、 自身の能力を最も発揮できる分野は一体何なのか考える余裕は持って欲しいですし、 技術者それぞれが最も自分に向いている仕事に出会えるように手助けすることこそが、 技術者のための技術会社の存在意義なのではないかと思います。

Filed under: 元CTO の日記,技術者の成長 — hiroaki_sengoku @ 07:34

4 Comments »

  1. [キャリア]技術者の成長に役立つ会社を読んで

    「お金」を求める自信も度胸もないからこそ、「制度」としての「福利厚生」を求めるのでしょうが、実力が足らないのを自覚しているのなら、「福利厚生」を享受するなんて余裕をかましている場合じゃないでしょう? 仙石浩明CTO の日記: 技術者の成長に役立つ会社とは?(1)

    Comment by Talking Nonstop — 2007年5月17日 @ 00:17

  2. 多くの人や情報に嫉妬しなくても大丈夫なんだという安心感を与えてくれる環境
    自分は自分で良いということを再認識させてくれる環境
    マネージメントをする上司は細かいことを言わず会社の方針を述べてその延長戦で自分たちが食えるだけの収益を上げれることを技術者自身が考える環境
    こういう環境の場所を探しているのかも、我ながら自分に甘い。
    不安になるとhoc.shに帰って自分でもやれるんだと再認識する、心の弱さを見せられないエンジニアより。馴れ合わず、真剣に、馬鹿にされず|せず、歯に絹着せぬ言葉を言い合える仲間がほしい。

    Comment by miya — 2007年5月17日 @ 02:33

  3. 技術者の成長に役立つ会社について考えてみる

    仙石浩明CTO の日記: 技術者の成長に役立つ会社とは?(1) 仙石浩明CTO

    Comment by 304 Not Modified — 2007年5月17日 @ 22:33

  4.  全体的に共感しました。やりたいことをやるのが一番。好きなことを見つけることが大事です。そして、それを受け入れる会社が必要です。
     日本人はすぐに粗末な精神論を持ち出して、好きでもないことを好きになれと強要し、要望を言えば甘えるなと叩く。そんなことを哲学として掲げる企業もあるのだから自殺者が多いのも納得である。
     精神論は自分を責めるものではなく、励ますものでなければならない。否定的な精神論は嫌味な上司が使用する以外に使い道が無く、百害あって一利なし!!

    Comment by 共感した — 2007年5月27日 @ 15:28

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