実践で学ぶ、一歩進んだサーバ構築・運用術

第 1 回 ここまでできる充実環境


常時接続の魅力

「各種サーバーを自由に立ち上げられることが魅力」, と言ってもいまいちピンとこないかもしれませんので, いくつか具体例を紹介してみます。

● Web サーバー

プロバイダの Web サーバーを間借りするのと, 自分で Web サーバーを立ち上げるのとでは, いろいろ事情が変わってきます。 プロバイダの Web サーバーだと, 例えば

といった制約があります。

現在, ハード・ディスクの値段はタダ同然 *13 ですから, 自前の Web サーバーならいくらでも容量を増やせます。 また, 自分のマシンですから, 好みの Web サーバーを立ち上げられますし, もちろんその Web サーバーのすべての機能を活用できます。 さらに, 他のサーバーと連携させることだって可能です。

● メール・サーバー

多くの人が迷惑メールに悩まされていると思いますが, 自前のメール・サーバーなら迷惑メールの撃退が可能になります。 プロバイダが提供するメール・サーバーでも, メーラーによっては迷惑メールを表示しない, あるいは POP サーバーからダウンロードしないような設定が可能ですが, 迷惑メール対策としては消極的 *14 である感を拭えません。

なぜなら, 迷惑メールの送信者側から見ると, メールはプロバイダのメール・サーバーには届いているわけで, その後, 受信者が読んだか, 読んで捨てたか, メーラーの機能を使って読む前に捨てたかは判別する方法がありません。 受信者が読もうが読むまいが構わず送りつけるのが迷惑メールのゆえんであるわけで, この場合送信者は迷惑メールを送り続けることでしょう。

一方, 自前のメール・サーバーならば, 迷惑メールがメール・サーバーに届けられる前に拒否できます。 この場合, 送信者にはエラー・メールが返ります。 つまり送信者にもメールが届いていないことがはっきり分かるのです。 何度出しても届かなければそのうちあきらめるでしょう。 仮にあきらめなかったとしても, こちらは痛くもかゆくもありません。 メール本体が送られてくるまえに SMTP 接続を切ってしまえるのですから。

● ニュース・サーバー

迷惑メールと同様, ネット・ニュースのSPAM *15 記事は迷惑なものです。 多くの人がニュース・リーダーの機能を使って, SPAM 記事が表示されないようにしているのではないでしょうか。

自前のニュース・サーバーなら SPAM 記事の配送自体を拒否することができ, 微力ながらも SPAM 記事の広がりの制限に一役かったという満足感が得られます。

また, 自前のニュース・サーバーを立ち上げるということは, 過去何カ月分かの記事がすべて自分のマシンに蓄えられているということです。 namazu などのフリーソフトウエアを使って全文検索することが可能になります。

ネット・ニュースの記事は玉石混交で, 役に立つ記事も多いのですが, それ以上にくだらない記事がたくさんあります。 とても全記事に目を通す暇がない, という場合に全文検索は非常に有効です。

さらに, ニュース・サーバーで扱うのはネット・ニュースの記事に限りません。 メーリング・リストのメールを記事として ニュース・サーバーへ与えることも可能です。 記事としてニュース・リーダーで読むようにすれば, かなり流量の多いメーリング・リストでも目を通すことができるようになるでしょう。 あるいは読むのをやめてしまって, 後日全文検索で有用な記事だけ選び出す, という読み方もできます。

● telnet / ssh サーバー

シェル・サービス(ユーザーがプロバイダのマシンにインターネットから telnet 等で login できるサービス) を提供するプロバイダはもともと多くは無かったのですが, セキュリティ上の都合からか, サービスを廃止するプロバイダが相次ぎました。

インターネット上に login できるマシンがあるのと無いのとでは, インターネットでできることがだいぶ変わってくるのですが, login できるマシンがあると悪事も働かされやすくなるので, プロバイダにとっては提供したくないサービスの筆頭と言えるでしょう。

自分のマシンをインターネットに常時接続 すれば,インターネットからlogin できるだけ でなく,そのマシンの特権ユーザー(root )に なれますから,どんなことでもできます。ssh *16 を使ってlogin セッションを暗号化しておけ ば,他者に盗聴される心配もありません。

このような, インターネットから login して自由に操作できるマシンは, インターネットの世界における「自分の家」のようなものです。 どこからインターネットに接続しても (例えば旅先から現地のプロバイダを利用して接続), 「自分の家」に帰って普段と変わらない作業が継続できます。 メールやニュースの読み書きをしたり, 書きかけの原稿の続きを書いたり, 等々。 もしこのマシンに FAX モデムが接続されていれば, FAX の送受信だってできます。

VPN (Virtual Private Network )を使えば login だけでなく, あらゆるプロトコルを, 他者に盗聴される恐れなく, 使うことができます。 まさに何でもできて, しかもプライバシーが守られる, 「自分の家」ですね。

一方, 「自分の家」を持たず, ダイアルアップ接続によるインターネット接続しか インターネットへの接続手段を持っていないのは, 住所不定のようなもので, はなはだ頼りないものです。

もちろん, 巨大なハード・ディスク内蔵のノートパソコン *17 を持ち歩けば, 普段の作業に必要なデータを すべてハード・ディスクへ入れておくことも不可能ではありませんが, これではまるで自分の家をトレーラに積んで旅しているような感じです。 特定の仕事の限られたデータだけを持ち運ぶだけならまだしも, 日常の作業で必要になるかもしれないデータのすべてを持ち運ぶのは 現実的ではないでしょう。

例えば私は, ニュース・サーバーに蓄えられた半年分の記事を対象に 全文検索することがよくありますが, ノート・パソコンにニュース・サーバーをインストールし, かつ蓄えられた記事を常に最新に保つ, などということはあまり考えたくありません。

● NTP サーバー

0.1 秒と狂わない正確な時計が手元にあるというのはいいものです。 ダイアルアップ接続でも工夫すれば正確な時計合わせが可能ですが, 常時接続なら NTP サーバーを走らせておくだけで簡単に正確な時刻が得られます。 NTP (Network Time Protocol)は, 遅延の生じるネットワークで, 正確な時刻情報をやりとりするために開発されたプロトコルです。 そしてこの NTP サーバーを基準時計として, LAN に接続した他のすべてのPC の時計を合わせられます。 NTP の詳細については 「Time server」 を参照にしてください。

*13
27G バイトが 2 万円強で売られていたりするのですから,隔世の感があります。
*14
もっと消極的な迷惑メール対策は, メール・アドレスを公開しない, ニュースに投稿する時は別のアドレスを使う, という方法ですが, メール・アドレスは広く一般に公開してこそ役に立つのであって, 知人にしか教えないのであればメリット半減です。
*15【スパム】
同一メッセージのコピーを大量に さまざまな電子メール・アドレスや ニュース・グループに送信すること, またそのように送信された記事などを「SPAM」(スパム)といいます。 SPAM の語源は米 Hormel foods 社の缶詰にありますが, 同社が上記のような記事を送信したということではなく, TV コメディ「モンティ・パイソン」の 1 エピソードに由来しています。
*16【ssh 】
Secure SHell の略。 安全なリモート・ログインやリモート・コマンド実行のためのプログラムです。 機能的には rlogin,rcp や rsh といったコマンドに良く似ていますが, 認証機構の改善や通信データの暗号化など, セキュリティに配慮されています。 フィンランドの SSH Communications Security 社が開発しています。
*17
最近は 10G バイト超のハード・ディスク内蔵のノート・パソコンも 珍しくなくなってきました。

(筆者の家庭内LAN の構成)


本稿は日経Linux 2000 年 4 月号に掲載された、 実践で学ぶ、一歩進んだサーバ構築・運用術, 第 1 回「ここまでできる充実環境」を日経BP 社の許可を得て転載したものです。

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