仙石浩明の日記

2006年5月16日

断片的な知識と体系的な知識

この季節、新卒(見込み)の学生さんを数多く面接してきたのですが、 新卒の段階で既にとてつもなく大きな差がついていることに改めて驚かされました。

中途採用の候補者の方々は、 前職でいろいろ学び経験してきたので、 多くを学んだ人とそうでない人とは大きな差がつくのは、 まあ当然と言えるでしょう。 それに対し、 新卒の学生さんは、これから職業生活のスタートを切るわけで、 差があったとしてもまだその差は小さいと思いがちです。

もちろん、学生さんたちを、 仕事を遂行する能力という点で比較すれば、 優秀な人もそうでない人も、そんなに大差ないでしょう。 この人はスゴイ、と思うような人でも、 入社直後にバリバリ即戦力として働けるか、というと おそらくそんなことはないと思います。

しかしながら、今後大きく成長する可能性が感じられる人と、 早くも既に成長の限界が見えてしまっていて、可能性がほとんど感じられない人、 という点では、 もう既に逆転不可能とさえ思えるような大差がついてしまっています。

可能性が感じられる人、というのはつまり、 自分が何をしたいか明確に分かっていて、 かつその分野の体系的な知識を身につけている人たちです。 現時点ではそんなに多くを習得しているわけではないにせよ、 体系全体を理解していますから、 自分がどこまで知っていて、未知の領域がどのくらいあるか、 感覚でつかんでいます。

一方、あまり可能性を感じられない人、というのはつまり、 自分が何をしたいのか、まだつかみきれていない人、 あるいは、 何をしたいかは分かっているのだけど、 断片的知識の寄せ集めしか身につけておらず、 その分野の体系の全体像をつかめていないので、 自分が何を知らないのか分からず、 井の中の蛙になってしまっている人たちです。

何をしたいかすら分かっていない人については、 先日「人の役に立つことをしたい」と言う技術者の卵たちで書きましたので、ここでは割愛します。

井の中の蛙とはいえ、自分が何が好きかは分かっている人は、 どんどん自発的に新しいことを学んでいけるので、 短期的には活躍できるでしょう。 しかし雑多な断片的知識はどこまで集めても体系にはなり得ません。 井戸の中しか知らない蛙は永遠に大海を知ることはないのです。 しかも、インターネットが普及した昨今、 断片的知識を得ることは限りなく容易になってしまい、 体系的知識を学ぶことが相対的に困難になってしまっています。

つまり、 今も昔も、 体系的知識を学ぶこと自体の難易度は変わっていないと思うのですが、 断片的知識がインターネット等であまりに容易に 見つけられる (なんせ google 一発ですもんね) ようになってしまったので、 体系的知識、すなわち IT業界で言えば 「情報処理のキホン」を学ぶ機会が減ってしまったと思うのです。 「情報処理技術の基礎を知らない情報技術(IT)業界の技術者」というのは こうやって文字面をみるだけでも頼りない感じがしますよね? (^^;)

そこで KLab(株) ではそういう機会を少しでも提供したいという思いから、 輪読会を実施しています。 現在進行中の輪読会では、

コンピュータサイエンスのための離散数学
Information & computing (61)
守屋 悦朗 (著)

をテキストとして使っています。 ぶっちゃけこの本は説明が簡潔すぎてイマイチなのですが、 あまり分厚い本だと読む前にメゲてしまいますし、 この本で端折っている部分は、 数学科出身のアーキテクトに補足説明してもらっているので、 なんとかなりそうです(反面、1ページ読み進むのに何時間もかかったりしますが ^^;)。

実力主義・能力主義」で

技術者が「技術だけでどこまでも上っていける会社」 「自分のキャリアパスを明確に描ける会社」それが理想。 出世すると技術がなくなったり、上司がいつの間にか技術者でなくなると、 「いずれは技術を捨てなければならない」と思ってしまう。それはありえない。

と書きましたが、 「技術だけでどこまでも上っていく」には、 技術体系全体を俯瞰して、 自身の現在位置が把握できていることこそ必要だと思うのです。

Filed under: 元CTO の日記,技術者の成長 — hiroaki_sengoku @ 09:45

9件のコメント »

  1. #1
    先日はありがとうございました。
    早速ですが家に帰宅してからgoogleで「遺伝的アルゴリズム」「本質」と入力したところ14件目に
    http://72.14.203.104/search?q=cache:MtNPoQpkPy0J:www6.plala.or.jp/mnagaku/cmag/ac19999/ga2.html+%E9%81%BA%E4%BC%9D%E7%9A%84%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%B4%E3%83%AA%E3%82%BA%E3%83%A0%E3%80%80%E6%9C%AC%E8%B3%AA&hl=ja&gl=jp&ct=clnk&cd=14&lr=lang_ja&client=firefox
    のようなサイトが表示されました。
    本質もインターネットで検索できる時代なのかもしれません。
    しかし、いくら物事の本質をかき集めても断片的な知識であり、それをうまく組み立てられない限り体系的な知識として学ぶということは難しいように思えました。

    コメント by NJ — 2006年5月16日 @ 19:19

  2. #2続き
    実際に私は大学に入学してから自分で”探す”ということをこと覚えました。以前は何でも人に聞いていました。
    自分で考えて予測する、想像するというステップが抜けていたようです。
    例えば、ついこの間も業務用冷蔵庫と家庭用冷蔵庫の違いは何だろう?と、ふと思った次の瞬間には検索してしまいました。
    自分ではまったく考えていなかったのです。結果を見て、「なるほど、確かにそうだ!」と思うだけでした。

    コメント by NJ — 2006年5月16日 @ 19:22

  3. #3続き
    成長の可能性に関して言えば、限界はないと思います。自分自身でそれを感じてしまった時点でアウトなのかもしれません。
    ただ、好きな事を早くに見つけ努力した人は成長の可能性が他の人よりも感じられることも事実でしょう。
    逆転不可能とさえ思えるような大差がついてしまっていても100%ダメなわけではないです。
    例えば、マラソンの選手がよき指導者と出会って一気に花開くことも少なくありません。一つの出会いで大きく人は左右されます。
    そこに無限の可能性があるように思えます。
    そう言った意味では、学生は恵まれています。就職活動にて何年も働いて能力を開花させている起業の中心人物とお話が出来る場が提供されているのですから。
    恵まれたチャンスをどう活かすかは個人の問題です。私もそのチャンスを活かせるよう努力したいと思います。

    コメント by NJ — 2006年5月16日 @ 19:23

  4. 可能性が感じられる人

    仙石浩明CTO の日記: 断片的な知識と体系的な知識 "可能性が感じられる人、というのはつまり、 自分が何をしたいか明確に分かっていて、 かつその分野の体系的な知識を身につけている人たちです。 現時点ではそんなに多くを習得しているわけではないにせよ、 体系…

    コメント by パンデイロ惑星 (PukiWiki/TrackBack 0.3) — 2006年5月16日 @ 23:18

  5. 体系的な知識

    仙石浩明CTO の日記: 断片的な知識と体系的な知識 "つまり、 今も昔も、 体系的知識を学ぶこと自体の難易度は変わっていないと思うのですが、 断片的知識がインターネット等であまりに容易に 見つけられる (なんせ google 一発ですもんね) ようになってしまったの…

    コメント by パンデイロ惑星 (PukiWiki/TrackBack 0.3) — 2006年5月16日 @ 23:19

  6. 面接した直後に、さっそく私の日記を読んでいただき、ありがとうございます(^^)。
    「本質」のキーワードで検索したからといって、本質が表示されるとは限りませんよね?
    実際、このページには、「GAは、染色体の表現する空間内での探索問題を解くのが本質です。」と書いてあるだけであって、これが本質かというと… どちらかというと当たり前のことかと…(^^;)。
    重要なのは、GAの個別の実装ではなくて、「探索」自体を体系的に学ぶことだと思います。

    コメント by 仙石浩明 — 2006年5月17日 @ 09:01

  7. 断片的な知識と体系的な知識

    CTO日記に書いた「断片的な知識と体系的な知識」を、沢山の方々に読んで頂けた。
    じゃ、オマエは学生の時どうだったんだ、という声が聞こえてきそうなので、私の学生生活を振り返ってみる。コンピュータの分野が好きだと思ったのは中学一年の時で、体系的な知識を学んだのは大学の専門課程に進んでからである。

    コメント by GCD — 2006年5月17日 @ 13:55

  8. 断片的な知識と体系的な知識

    断片的な知識と体系的な知識体系的な知識を学ぶことはある程度可能です。但し、その分野が十分に研究されていて、体系化されているならば、という条件が付きます。体系化は、学問化と言っても良いでしょう。この場合、本当に良くできた教科書を読むことで、体系的な知識を学…

    コメント by blog-mnagaku's BLOG-IGDA Japan chapter — 2006年6月13日 @ 00:33

  9. コンピュータ科学における体系的な知識

    「断片的な知識と体系的な知識」にトラックバックを頂きました。
    長久さま曰く:
    体系的な知識を学ぶことはある程度可能です。
    但し、その分野が十分に研究されていて、体系化されているならば、
    という条件が付きます。体系化は、学問化と言っても良いでしょう。

    コメント by 仙石浩明CTO の日記 — 2006年6月20日 @ 06:37

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