仙石浩明の日記

2007年2月9日

組織を強くする技術の伝え方

ふと立ち寄った本屋で、たまたま手にした本:

プログラミングでメシが食えるか!?
―成功するプログラマーの技術と仕事術 (単行本)
小俣 光之 (著)

を読んでみて驚いた。 私がプログラミングについて漠然と考えていたことを、 とてもよく整理した形で説明している。 ふだん私はこの手のコンピュータ関連「読み物」をほとんど読まないのだが、 書いてあることにいちいち共感してしまって、 そのまま一気に読んでしまった。

プログラミングに関して、ここまで私と考えが似通っている本を 今まで読んだことがなかったので、 著者の小俣さんにメールを送ったところ程無く返信があり、 直接お会いして色々お話することができた

メールの中で小俣さん曰く、 「本書は批判的なコメントが多い中、共感いただけて本当にうれしいです」。 例えば Amazon のカスタマーレビューには、

内容が古すぎます, 2007/1/29
この本の前半はプログラミングスキルの説明をしているのですが、 いかんせん内容が古すぎます。
(中略)
それと本書では複数の開発言語を勉強することを 時間のムダであるかのように書かれていますが、これは大きな誤りです。 優れたプログラムを書くには多くのプログラミング言語を理解し、 その言語に合わせたプログラミングを行なわなければなりません。
タイトルに惹かれて本書を買いましたがその答えはどこにも書かれていませんでした。 まさか最後の章に書かれている「固有技術を磨く」が答えなんでしょうか? 1つの技術に固執すると、その技術が使われなくなったタイミングでメシが食えなくなります。
全体的にがっかりな内容です。

という批判が載っている。 まあ、誰しも自分が考えたいようにしか考えないものだし、 自身の考えが否定されるような本に対しては、 強く反発するのも仕方がないところだと思う。 私自身、私のブログに対し次のような批判的なコメントをもらったことがある。

3. Posted by 20代練習生    2006年07月07日 06:37
こういう記事は老害でしかないと思うんですが。
(中略)
昨今の情報が過剰な状況では、筋道立てて何かを学ぶなんて不可能です。 というか系統立てて学ぶなんて愚かなことです。
あらゆる分野でコミュニティが確立されていて、 何か疑問や問題点があってもそこへポストすれば即座に解決可能です。
こういう時代では、芯の通った骨太で系統的な知識よりも、 断片的で、それ自体では応用も利かないようなぽつぽつとした知識を 多くもっていることの方が価値があると思います。

「優れたプログラムを書くには多くのプログラミング言語を理解し、 その言語に合わせたプログラミングを行なわなければならない」とか、 「断片的な知識を多くもっている方が価値がある」などと思い込んでいる人に、 「その考え方は間違っている」なんて言ってもよりいっそう反発されるだけだし、 そもそも道を誤ったエンジニアを救うよりは、 将来伸びる素質を持ったエンジニアを育てる方が楽しいわけで、 間違った考え方を正してやる義理はないとは思う。

しかしながら、間違いを正してやることにより 伸びる可能性が出てくる人であれば話は別である。 また、その可能性が出てくる人というのが 自分の部下だったり一緒に仕事をする仲間だったりすればなおさらだろう。 というわけで、

組織を強くする技術の伝え方 (新書)
畑村 洋太郎 (著)

を読んだ。「技術は時代とともにダイナミックに変化するが、 その本質部分がきちんと伝わらないと、 大きな変化に対応ができない。 だからこそ『技術を伝える』ことについて徹底的に考え尽すことが必要」と 本書は説く。大変感銘を受けた。特に

技術というのは本来、「伝えるもの」ではなく「伝わるもの」なのです。
(中略)
伝える側が最も力を注ぐべきことは、 伝える側の立場で考えた「伝える方法」を充実させることではありません。 本当に大切なのは、 伝えられる相手の側の立場で考えた「伝わる状態」をいかにつくるかなのです。
第2章 伝えることの誤解 53ページから引用

は、「技術を伝える」ことの本質を見事に言い表しているように思う。 間違った考え方を正してやるには、 まず相手の頭の中に「伝わる状態」をつくらねばならない。

何かを若い人たちに伝えようとしたときに、 「内容が古すぎる」とか「老害」だとか反発する人はいつの時代にもいる。 もちろん古くなって伝えるに値しなくなるものもあるが、 たとえ日進月歩のコンピュータ/インターネットの世界であっても 不易普遍なものはある。 そういったものを「古い」という理由だけで学ぶに値しないと思い込んでいる輩は、 畑村氏が言うところの「偽ベテラン」ないし「偽ベテラン予備軍」なのであろう。

長年やっていれば、誰でもそれなりの技術を習得できます。 極端なことを言うと、 どんなに能力がない人でも そのときの自分の状態にあった程度のことを実践していけば、 その積み重ねの中でやがてはなんらかの技術を習得することができます。
しかし、このようなものは本来、技術の伝達とはいえません。 これを技術の習得というのも不適切で、 ただ単に技術に慣れただけというのが正確な言い方でしょう。
じつはこのように、 経験と慣れだけで技術を獲得してきた人は世の中にたくさんいます。 私はこういう人を「偽ベテラン」と呼んでいます
終章 技術の伝達と個人の成長 170ページから引用

どんどん移り変わる表層的な技術や、 応用は効かないが当座の役には立つ断片的な知識は、 検索一発で探し当てられる便利な世の中だからこそ、 「技術の伝達」の重要性はますます高まっているのだと思う。

Filed under: 技術者の成長 — hiroaki_sengoku @ 07:17

8件のコメント »

  1. 書評 – 技術の伝え方

    これは、伝わる。
    技術の伝え方
    畑村洋太郎
    「伝える」ではなく、「伝わる」。

    コメント by 404 Blog Not Found — 2007年2月9日 @ 13:29

  2. 自分が買った本に色目がつくほうがよくあること。
    昨今は1人1プロジェクトのような組織運用で振り返ることもできない環境も多く、
    技術を評価できる土壌がないと技術の伝達云々を考える必要すらない。
    この本の場合、間違っているとか正しいとかは、強い組織、弱い組織というものの定義に沿って語られるべき。

    コメント by i — 2007年2月9日 @ 15:52

  3. [雑記]コミュニケーションでネックになるのは、受信能力

    何かを若い人たちに伝えようとしたときに、「内容が古すぎる」とか「老害」だとか反発する人はいつの時代にもいる。もちろん古くなって伝えるに値しなくなるものもあるが、たとえ日進月歩のコンピュータ/インターネットの世界であっても不易普遍なものはある。そういったも

    コメント by 酔狂人の異説 — 2007年2月11日 @ 05:17

  4. どうもごぶさたしてます。
    最近は北京で中国人研究者との交流(というか教育)が多いので、この手の話には敏感です。
    常に新しいもの”だけ”を追おうとする大学を出て間もない若者に、”普遍的な何か”をつかんでもらうにはどうするかを悩んでいます。
    私個人の結論としては、「自分の経験を他の領域にもすぐに適用できるよう自分の中で知識を汎用なものへ、普遍的なものにしていく」しかなさそうだということになりました。
    プログラムで言えば、プログラミング言語ではなく、仕様やアルゴリズムからすべてを考えるということで、プラットフォームや言語を使った実装への最適化は次のステップということです。
    幸い私の周りの中国人研究者は非常に頭脳が柔軟で私の考え方に少しずつ理解を示してくれています。
    [長文コメントご容赦ください]

    コメント by みやけしげる — 2007年2月12日 @ 18:18

  5. 「伝わる状態」についてはもっと一般化する必要があるかも知れません。つまるところ「うまく行くような状態」を作るのですから。考え方が群制御に似てるかもしれません。

    コメント by tarosuke — 2007年2月12日 @ 18:56

  6. どうもご無沙汰しております。> みやけさま
    頭のよい人であれば、かなりの部分自力で普遍化を達成してしまうのでしょうけれど、「教育」によってそれをどこまで加速できるか、あるいは自力では普遍化が行えない人をどこまで救えるか、が教える側の腕の見せ所、というところなのでしょうね。
    すぐに役に立つ「プログラミング言語」を教えるのは「伝え方」重視の教え方、「アルゴリズム」を教えるのは「伝わる状態」重視の教え方、という言い方もできそうですね。

    コメント by 仙石浩明 — 2007年2月13日 @ 12:22

  7. いい書評

    概ね共感いたしますた。
    組織を強くする技術の伝え方 (仙石浩明の日記 さま)
    せっかくいい書評を書いておられるのですから、Amazon アソシエイト利用されればいいのに、もった

    コメント by 国民宿舎はらぺこ 大浴場 — 2007年2月14日 @ 01:16

  8. 体系化された知識 vs 断片的知識

    以下のブログ記事を読んでの感想です。仙石浩明の日記: 組織を強くする技術の伝え方

    コメント by ronSpace — 2007年2月19日 @ 20:40

この投稿へのコメントの RSS フィード。

コメントする