仙石浩明の日記

2007年5月25日

転職エージェントは、誰の「エージェント」なのか?

転職エージェントとは、 求職側と求人側のマッチングを行なう人材紹介会社のこと:

正式には「有料職業紹介事業所」と呼ばれ、 厚生労働大臣の認可を受けた民間の職業紹介・あっせん会社のことです。 転職を希望する方と、正社員などを募集している企業とを 「人の手」でつなぐサービスを行っています。 転職エージェントが集めた求人情報は、 企業の人事担当者から直接仕入れた生の情報です。 そのため、企業の求める人物像を的確に把握した上で、 マッチングを行うことができます。

転職の際、お世話になった人も多いだろうし、 かくいう私自身、KLab(株) 創業メンバに加わるきっかけは、 転職エージェント (もちろん、上記引用先エージェント会社とは異なる会社である) に紹介されたからだった。

当時 (2000年3月)、連載記事を書いていた日経Linux の巻末「ライターから」に、

転職には全く無関心だった (転職雑誌は一度も読んだことがありませんでした) 私が なぜ転職することになったのか、話は半年以上前に遡ります。 昨年の夏、突然職場に外国人から電話がかかってきました。 慣れない英語で必死に聞いていると、 どうやら就職斡旋会社の人 (かっこよく言うとヘッドハンタですが ;-) のようです。 胡散臭いと思いつつも何度か英語のメールをやり取り (もちろん職場のアドレスを使うのは避けました) すると、 真っ当な斡旋会社であることが分かったので、一度会ってみることにしました。

と、書いたように、 ある日突然電話がかかってきて、誘われるままに企業を紹介されただけだったので、 転職エージェントがなぜ無料なのかも理解していなかった。 転職希望者から見ると無料だが、 実際は求人企業が「コンサルティングフィー」を負担しているから無料、 というだけのこと。

転職エージェントは、 転職希望者に相談料やサービス料を求めることは一切ありません。 それは、企業の採用を支援することにより、 求人企業からコンサルティングフィーを受け取っているからです。
転職エージェントとは から続けて引用

私を採用するときに支払ったこの「コンサルティングフィー」が いかに高額であったかを、 後になって愚痴っぽく聞かされたものだが、 あれから 7 年、KLab(株) は順調に発展しているわけであるし、 負担させてしまった「コンサルティングフィー」に見合う働きは できたのではないかと自負している。

求人企業が支払った「コンサルティングフィー」が、 「コンサルティング」を受けたことによって 求人企業と求職者とが得た「利益」に見合えば、 転職エージェント、求人企業、求職者の三者ともハッピーであるわけだし、 (私自身の事例も含めて) そういう転職事例も多いとは思う。

しかしながら、求人企業と求職者が得た利益の合計が 「フィー」を下回る場合はどうだろう? 三者のうち、 一者 (求職者) がこの「フィー」の額を知らされないという点に、 この転職斡旋の仕組みの問題があるように思う。 すなわち、求職者にとって転職エージェントは キャリアアドバイスを受けられたり、求人企業との交渉を代行してくれたりと、 とても「心強いパートナー」なのであるが、 このサービスが実際に支払われる「フィー」に見合うか否かの判断は、 「フィー」の額を知らなければ不可能だと思う。

さらに言えば、求職者が転職エージェントから受けるサービスは、 どんなに親身なキャリアアドバイスであったとしても、 どんなに高く見積ったとしても、 数十万円以上の価値を認める求職者は極めて稀なはず。 もし仮に求職者自身がサービスの対価を支払うのであれば、 もっと低い額になってしまうかも知れない。 つまり求職者側の感覚からすれば、 一般的なコンサルティングフィーは、文字通り桁違いに高額である。

だから、コンサルティングフィーは、 求職者に対するサービスというよりは、 求人企業に対するサービス (つまり求職者を探しだし、紹介すること) の 対価ということになる。 希少な人材であればあるほど (探し出すにはコストがかかるから) サービスを受けることによって求人企業が得られると感じる利益は大きくなるわけで、 得られる利益がフィーより大きいと考えれば、 紹介してもらった人を喜んで採用することになるし、 得られる利益がフィーより小さい、 すなわちあまり希少性が高くない人材と判断すれば、 たとえ採用基準を満たしたとしていても、 不採用になるだろう。

求職者にとっての転職エージェントを、 「プロスポーツ選手のエージェント」に喩えることがあるようだが、 この喩えは次の理由で不適切と言わざるを得ない。 すなわち、「プロスポーツ選手のエージェント」は、 選手の代理人として、 選手の利益を最大化することを目的として行動するのに対し、 転職エージェントのサービスは前述したように主に求人企業に向けられている。 プロスポーツの選手は当然、エージェントの成功報酬額を知っていて、 エージェントが報酬額に見合う働きをしていないと思えば、 その契約を解消して別のエージェントと契約するだろう。 一方、転職エージェントの場合は、 求職者が成功報酬額を知らないばかりか、 エージェントとの契約が簡易な「登録」で済まされてしまうことも多い。

つまり、「転職エージェントは、誰の『エージェント』なのか?」といえば、 求人企業に代わって求職者を探してくれる、 求人企業のエージェント (代理人) なのである。 このことは秘密でも何でもなく、多くの人が知っている事実だと思うのだが、 問題は当事者である求職者が、この事実を知らされていない、 あるいは「求職者のエージェント」であると誤解するのを放置している、 あるいは (派手な広告宣伝などによって) 誤解を助長していることにあるのだと思う。

求職者にもコンサルティングフィーの額を開示する、 あるいはキャリアアドバイス (and/or 求人企業との交渉の代行) と就職斡旋を分離する、 というのは非現実的かも知れないが、 転職エージェント業界がより健全に発展するために 必要な思考実験のようにも思われるのだが、 どうだろうか。

- o -

なぜこんな話をするかと言えば、 数年来の知人を転職エージェントに紹介されてしまう、 というハプニングに最近見舞われたからだ。 求人企業と転職希望者が勝手に直接意思疏通しては、 転職エージェントが「フィー」を請求できなくなってしまう。 そこで転職エージェントは求人企業と契約を結んで、 このような意思疏通を制限するのが一般的だが、 おかげで知人なのに話せない、というとても苦しい立場に追い込まれてしまった。

不条理を感じつつも、契約は契約なので仕方がない。 その知人がメールで、

転職エージェント A社さんの件で すが A社さんと連絡をとった所、説得されてしまいまして
(^.^;)このまま A社さん経由で手続きさせていただきたいん ですがよろしいでしょうか?
仙石さんからしてみたら回りくどいことをとお思いかもしれません が、どうか宜しくお願いします。
A社さん自体はいいエージェントさんだと(私は)判断してま すので、宜しくお願いします。

と連絡してきた時点で万事休すである。 私にできることといえば、 転職エージェント経由で送られて来た知人のレジメを読んで、 書類選考の結果を転職エージェント経由で返すことだけである。 知人にとっては、転職エージェントを利用するメリット/デメリットは、

メリット:
A社が応募書類の送付などの手続きを代行してくれるから楽。
他にも数社に応募していて、そこら辺のスケジューリングとか交渉が楽になる。
デメリット:
「回りくどい」と私に思われる

であって、 メリットの方が大きいと判断したのだろう。 よもや、 (転職が成立した暁には) 「手続きとかスケジューリングとか交渉が楽になる」なんてメリットが 消し飛ぶくらい高額のフィーが転職エージェントに支払われることになろうとは 夢にも思っていないはずである。

いくら高額でも自分で払うわけじゃないから気にならない、 と考える人がいるかも知れないが、 フィーの額が採否を左右するとしたらどうだろう? 求人企業側にとってはフィーを払う以上、 そのフィーに見合う人材かどうかが採否の判断基準になるのは当然のこと。 だとすれば不当に (?) 高い値段が自分につけられていないか、 気になるのではないだろうか?

この知人のケースでは、 能力的には KLab(株) の採用基準を満たしていそうな気もした (面接は行なっていないので定かではない) のだが、 フィーに見合うほど希少性が高いとは言いきれなかった。 そこで不採用の旨を転職エージェント A社に伝えた。

- o -

求人企業側として転職エージェントと取引することが多いのだが、 どういうわけか転職エージェントに求職者側として扱われることもある。 つまり転職エージェントから転職の誘いが来る。 ほとんどは下手な鉄砲数打ちゃ当る式に勧誘しているだけだろうから 無視しているのだが、 中には私のブログなどにも目を通して狙い撃ちしてくる転職エージェント (エグゼクティブ サーチと呼ばれる場合が多いかも) もある。 しかも特定の企業から依頼を受けて連絡したことを匂わせていたりする。

私の場合、コンサルティングフィーの世間相場もだいたい理解しているつもりだし、 (もちろん転職する意志はないが) 仮に誘いにのって転職するとすれば、 そのフィーの額を上回る価値を転職先企業に提供できる自信もある。 しかし私の名前を指定して転職エージェントに依頼するほど 私の能力を買ってくださる企業ならば、 なぜ転職エージェントなどを介さず直接連絡してこないのだろうか、とも思う。

...と思っていたら、実は某社から直接勧誘されてしまった。

幸か不幸か、人事担当者からの勧誘だったので、 お断りすることができたのだが、 もしこれが社長からの真摯な勧誘だったら、 もしかすると心が動いていたかも知れない (^^;)。

危ない危ない...

Filed under: 技術と経営 — hiroaki_sengoku @ 19:37

5 Comments »

  1. 仕組みを知ってるか否か(Re: 転職エージェントは、誰の「エージェント」なのか?)

    (via 仙石浩明の日記: 転職エージェントは、誰の「エージェント」なのか?)
    この知人のケースでは、 能力的には KLab(株) の採用基準を満たしていそうな気もした (面接は行なっていないので定かではない) のだが、 フィーに見合うほど希少性が高いとは言いきれなかった。…

    Comment by atsushifxの七転八倒 — 2007年5月26日 @ 00:01

  2. 転職のフィーとか

    転職エージェントは、誰の「エージェント」なのか?
    しかしながら、求人企業と求職者が得た利益の合計が「フィー」を下回る場合はどうだろう?三者のうち、一者 (求職者) がこの「フィー」の額を知らされないという点に、この転職斡旋の仕組みの問題があるように思う。す…

    Comment by 眠る開発屋blog — 2007年5月26日 @ 00:16

  3. 初めて書き込ませていただきます。

    「転職エージェントは誰のエージェントなのか?」
    内容を読ませていただきましたが、納得させられる点および同意できる点が多く、非常に興味深い内容でした。

    私は現在とあるエージェントを介して転職活動を行っているのですが、
    多くの点で企業側の要求ばかり押し付けてくるため、
    このエージェントは本当に自分のために活動を行ってくれているのか?
    と疑問を感じるようになったのが始まりでした。

    確かに高額な手数料を貰っているのならば、企業側は転職希望者に対し、「年収+手数料」以上のパフォーマンスを期待するわけですから、企業側も余程の確証がない限り、高手数料の応募者の採用は行わないという決定につながると思います。

    つまり、応募する側は、企業の意向を尊重し、面接日に有休を取得したりして企業側に訪問をしても、手数料の関係から採用される可能性は低くなるわけです。

    正直こうなるとエージェントを介さない方が採用されやすいのでは?と考えてしまいます。

    Comment by KID — 2012年6月6日 @ 18:18

  4. 採用する側の本音は、まさに「エージェントを介さないで直接応募してくれた方が採用しやすい」です。
    本音を言っちゃうと、エージェントとの関係をぶち壊すことになるので、そーいうことを表立って言う採用担当者は滅多にいないでしょうし、この記事を書いた 2007年当時は、私も採用を担当していたので、「エージェントを介さないほうがいい」とまでは書けませんでした (^^;)

    Comment by hiroaki_sengoku — 2012年6月18日 @ 05:23

  5. >hiroaki sengokuさま

    お返事ありがとうございました。
    貴重なご意見参考になります。

    私の転職活動は無事終了いたしましたが、記事の内容は非常に興味深い内容で面白く読ませていただきました。

    今後転職市場はどのように変わっていくのか分かりませんが、
    求職者のメリットとなるような新しいシステムが生まれることを期待したいですね。

    Comment by KID — 2012年7月19日 @ 13:40

RSS feed for comments on this post.

Leave a comment